まるで言葉のテーマパークのような物語、溢れんばかり、随所に散りばめられた言葉の仕掛けが楽しい一冊。世界を形作るは文字と記号、「僕」と「少年」は世界を進む、文字と記号の世界を進む、言葉の二人が世界を記したページを進む、端から端までページを進む。終わらないナンセンスな言葉遊び、繰り返されれば正直くどい。だが二人の冒険は、それもまたいいかと諦めさせるほどの、夢のような面白さ。冗談のように広がる世界に秘められた不穏な現実。未来人が示唆する不可思議な世界の仕組み。楽しかった冒険の終わり、悪い予感は当たり、あの夢の楽しさの余韻をと、煩わしい言葉遊びにさえ、ほのかに残った温もりにさえ、ちくりと痛む寂しさを煽られる。
『あおむけで走る馬』
イメージは膨らみ、言葉には尾ひれ。軽めの言葉を添えられても、笑いには中々繋がらない。凡打が延々と続くような煩わしさ、処理し難く、受け流すほかのない言葉の生ぬるさ、だが、それはそれで惰性、流れるよう、結局最後まで読んでしまう不思議。意味のない思いつきを、意図のない連想を、研磨することなく放出し続けているような言葉のくどさは、滑らかに生きて行くことが出来ないものたちの、捻れに捻れた苦痛の厄介さや、不器用な率直さを、ぼんやりと思わせる。重さはない、厚みもない、爽快さもない、ただ少しだけ、温かい。
新井 千裕
中央公論新社 (2014-12-20)
売り上げランキング: 704,100
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