我が子を流れる血に浮かぶ、不実への呵責、艶美なる交流を現実へと縛り付ける、子どもたちの存在。主人公と片割れの、その親である二組の夫婦が築き上げたそれは、現の領域を超えられぬ、現の醜さより逃れられぬ、生々しい苦しみを伴う類のものであったように思う。だが、子どもたちの至るそれは、現を渡った先の、夢のような美しさを帯びたもの。特異な試みの代償として本来抱かれるはずの、葛藤や罪悪感すら、一切の意味を失うほどの、美しさを帯びたもの。現で結ばれることを拒んだ、愛の艶やかさ。豊艶な愛の世界、片割れを求める魂の、妖しい色香だけが、冷酷に煌めく。
本作においても、主人公と片割れを結ぶもの、両者を境目なく絡ませ合うものは、求める思い、求める世界が互いに合致しているという、共犯者意識なのではないか。凡庸な世界のしきたりに、両者の関係性を馴染ませることなく、共犯者として在り続けることこそが、彼等の愛の実現。結末に満ちた豊かな微笑みの芳香は、それを叶えたものの冷酷さを帯びた、喜びの相貌そのものであったように思う。
倉橋 由美子
中央公論新社
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