2019年9月23日月曜日

岡本かの子『越年 岡本かの子恋愛小説集』

その言葉の強健さよ。決して衰えてしまう事のない、その迫力と凄み。漲っている。存分に潤い、行き渡っている。何もかもが、匂い立つように艶めかしく、濃い。ずっしりと、重い濃さ。ねっとりと絡みつくような、執拗な濃さ。摂取し切れぬほどに、濃い。おさまり切らず、溢れ出てしまうほどに、濃い。
すべてを強烈に感じる。生と死の美と醜、臭い、ぬめり、煌めき、凄まじさやしつこさやたくましさ。欲望も虚しさも、憤りも喜びも。迸る様も、超然と咲き誇る様も、悶々と溜まり、滞る様も、貪欲に吸収し、蓄える様も。むくむくと、育ち、豊艶に香る様も。強く、激しく、官能的に、生き、蘇り、超越し行く様も。鮮烈に感じる。その敵わなさよ。萎む事なく、衰える事なく、漲り続けるその。爛々と、重く香り立ち続けるその。ただただ圧倒される。摂取し切れず、どろりとこぼす。
言葉の強度。凄まじいと思う。特に食すと言う行為を表現する際のそれが。食す、食べる、咀嚼する、飲み込む、摂取する、吸収する、と言った行為…五感で触れた何もかもを自らの糧とし、力とし、養分とする様、そして蓄えたすべてを以って、いつまでも輝き続ける様、その貪欲さやたくましさや無尽蔵さを表現する際の、言葉の凄味。特に忘れ難い。


越年 岡本かの子恋愛小説集 (角川文庫)
岡本 かの子
KADOKAWA (2019-08-23)
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