2022年5月12日木曜日

川野芽生『Lilith』

ヴァージニア・ウルフ、かの本の中にて不意にヴァージニア・ウルフと出会うこと。痛みにも近い僥倖。はっとした。胸がひどく締め付けられるようで、たまらなかった。けれどかの本の中にヴァージニア・ウルフがいることは、必然的なことであるようにも思えた。〈魚やわたくしが棲むまでもなく〉の、その地平が好きだ。
痛みと抗いと、決意を秘する端正さ。美しいのだ。とても美しく、だが、そう言った言説でのみ語られてしまうことを決して許さないような、ただ耽溺するだけの関わり方を拒むような、厳しさと強さがあるように思う。〈わたしたちはみんな、〈薔薇色の脚〉なのではあるまいか。〉と言う、かの人の言葉を思い出す。〈じぶんの肉体に向けられた無遠慮なまなざし、不躾な言葉によって拒食に追い込まれたり過食に走ったりする、わたしたち。〉〈…わたしは誰の手にも入らない存在になりたかったのだ。〉