2015年6月13日土曜日

岡本かの子② 『金魚撩乱』『花は勁し』

『金魚撩乱』
その身より零れ、香り立つような、凄艶な美しさを宿しながら、瞳は淡く、薄く膜を帯び、虚ろな光が滲む。現実を歩む者の翳り、醜悪さ、くさみ、いずれも混じらぬ幽玄の美。だが、自らを取り巻くすべて、現のすべてに対する無関心にも似た鷹揚さ、何も映さぬような瞳で、無限を食べ、ただすいすいと泳ぐたくましさを漂わせた、悠久の命そのものであるような、その姿をこそ、男は愛し、耽り、殉じた。屈折し、決して果たされることのない愛情と結び付いた妄執の、凄まじい様相。女はただ悠々と、咲き誇る。生というものの不思議輝く結末の鮮やかさ。寂寞を照らす慈しみ、優艶な余韻の静けさに佇む。

『花は勁し』
主人公がふと、チーズのような、濃厚なものを口にしたいと欲する瞬間の描写が、妙に印象的。しつこく、豊かな味わいを持つものを食し、蓄え、自らの身体、精神を豊艶に輝かせるための力とする。豊満な肉体に満ち溢れる生命力の激しさ。愛するものの魂さえ、圧倒してしまうほどの激しさ。それ故に生み落とされた、哀しみ、翳り…だが、彼女の煌めきは色褪せず、陰影すら自ら熟し、却って鮮やかさを増した。摂取するものはすべて、美しさに。豊穣な色合いと芳香、堂々と咲く花の強さを、存分に愉しむ。