『老妓抄』
歩みを重ねるたび、その輝きを増す、命の美しさ。多くを知り、多くを咀嚼してなお、より豊潤な喜びを求め、尽きることなく、湧き上がる力。瑞々しく、新しいきらめき、その出会いのすべてを糧に変え、快活に、しなやかに、生きて行く。自らでは到達することの出来ぬ世界の鮮やかささえ、見届けたいと、抱き続ける期待。色豊かに変化する感情、衰えを知らず、華やかに、なお一層華やかに咲き誇る命の美しさ、愛おしく、柔らかに抱きしめる。
『鮨』
美味が誘う喜悦、食べる喜びを知った瞬間、世界は鮮やかに、豊艶に、その色合いを変えて行く。至福に染まった驚きに、全身を駆け巡る歓喜。美味を、喜びを噛み締める命の、瑞々しさ。薄く、孤独にくすんだ魂に漲る、色濃く、艶やかな生気。男の言葉より浮かび上がる、甘やかな愉悦と、愛おしき哀感の響き。輝かしくも、避けられぬ寂寥を秘めた、生の慕わしさ。力強く、豊穣な言葉の煌きに、心は温かく、満たされて行く。