2015年6月4日木曜日

獅子文六『てんやわんや』

とにかく面白い。無茶苦茶面白い。これぞ獅子文六!

戦火による傷も浅く、敗戦の風さえ未だ届かぬ地、四国にて過ごす一年間。てんやわんやのドタバタ生活。主人公は小心者で、臆病で、でもどこか憎めない、愛すべきキャラクター。その言動の懸命さ、少しズレ気味の懸命さで、小粒の笑いを量産する。個性の塊のような、アクの強い登場人物たちもまた、負けず劣らず、みな、魅力的。軽快な語り口の中に光る、敗戦を機に変わり行く世の中、人々の荒みを見つめる瞳は鋭い。だが用いる言葉はいつだって、嘆きや悲しみではなく、飄々と驚きを装う、おかしみに満ちたもの。

親しみ深くて、カラッとしていて、小気味好くて。わからないところがないのに、ただ何もかも明瞭であるばかりなのに、物足りなさを感じることもない。ズルイと思う。軽妙洒脱とはまさにこれ、とにかくもう、読み進めるのが楽しい一冊。



てんやわんや (ちくま文庫)
獅子 文六
筑摩書房
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