限りなく死に近く、限りなく近い、死の世界に寄り添いながらも、生と死の間を漂い続ける異界にて、妖しげに待ち受ける女性の体内に入り込み、熟れた肉を喰らう悦び。貪り、貪られ、互いの肉体を喰らい合う交わりの果てに、愛でた妖の体液を飲み干す至福。死の腐臭を秘めた肉体を用いる交わり、肉体が腐り行く様、肉体の崩壊、肉体の不浄。おぞましいもの、本来醜悪であるとさえされているものたちに感じる官能美。そこにあるべきはずの汚さがなく、清浄なものにすら感じることができるそれら。それら滅びを避けられぬもの特有の醜ささえ、蠱惑の芳香へと変える異界への陶酔は、多少の嫌悪と、鈍い戸惑いを伴う為に、かえって強く、心を絡めとる。
妖しくも美しい、悦楽に満ちた酔郷。醜猥さのない、神秘に濡れた情景の数々に、快く、酔い痴れる。
倉橋 由美子
河出書房新社 (2012-05-08)
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