2015年6月30日火曜日

ヴァージニア・ウルフ『ダロウェイ夫人』

僅かな時間の中にある、いくつもの流れ…不穏なもの、脈絡のないもの、慌しいもの、素朴なもの、微笑ましいもの。自らの表皮をなぞるよう、自らの内部を探るよう、露わにし、自らを覆う流れ、自らの漂う流れに浮かべた、いくつもの思い。直接に、或いは知らぬ間に、それぞれ呼応し合い、触発し合い、僅かであるはずの時間を、とめどなく押し広げて行く。まるで停滞がまとう重厚さ、濃密さを付与するよう、緩やかに。
余裕にくゆる倦怠と、痛みを読み解こうともがく鋭敏な狂気が、危うい近さで平行することの不可思議さ。鈍い喧騒、空しさに惑う心を刺す、紛れ込んだ死の重さ、時を告げる硬質な音の広さ…緩慢に満ちて行く場、まるで生そのものであるかのように、豊かに混ざる。 

それはひどく、大変なことだ。退屈で、緩慢で、複雑で、豊かで、虚しくて、恐ろしくて、愉しくて、不安で、充実していて、幸福で、大変なことだ。


ダロウェイ夫人 (集英社文庫)
ヴァージニア ウルフ
集英社
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