2015年7月3日金曜日

レオノーラ・キャリントン『恐怖の館 世にも不思議な物語』

驚くほどあどけなくて残酷で不可思議で、魔と毒を含んだように蠱惑的な物語。歪であり可憐である奇抜さの内に、嘲笑と背反を多分に秘するイメージには目を、埋められることなく連なる不可解さの内に、場違いなほど純粋に響く言葉には心を。瞬く間に奪われて行く。
浄化作用としての物語が帯びる凄み。根深い嫌悪と抵抗、執拗に迫り来る敵意と擦れ合う執着、共に在ることの快さ、伸びやかな日々の楽しさ、不幸な隔たりに入り込む哀しみ。多くを象り、多くを託された動物たちの活躍、暗躍、奇行。言葉もイメージも、魔をまとう情熱も、いずれも欠けることなく互いを高め合い、昇華を促し合う。
突き抜けた瞳が捉える世界の異質さと、それを頑なに貫き続ける言葉の危うさ。しかし奥底に感じるのは、溢れる才と彩、ひどく豊艶なしたたかさ…枷にさえ愛撫を施すかのような、その怖さ、その強さ、驚くほどに跡を残す。


恐怖の館―世にも不思議な物語
レオノーラ キャリントン
工作舎
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