2015年6月22日月曜日

笙野頼子『東京妖怪浮遊』

何だか妙に可愛らしい。そのやり口が、その手段が。自らの痛みやら、苦しみやらを消化するため、消化して正常に生きるため、正常な現実を守るため、妖怪化。それらの元凶となる存在を、元凶となる固定観念やら、思いの塊を、自分自身を、自分自身に下された評価ごと、妖怪化。
言っていることも、やっていることも、普段とそう相違はない。平素通り、負けぬためのものであるのだろうし、叩きのめすためのものであるのだろうし。自らの武器であり、鎧とするためのものであるのだろうし。それこそ笙野頼子らしく、悪意も皮肉もたっぷり。だのにどこか、可愛らしい。
人を小馬鹿にしたような言葉にも、当然激しいものは滲む。しかし、それでも何故か勝る、可愛らしさ。用いられる言葉の毒気さえ、トゲトゲさえ、最早大変チャーミングなものに感じられる不思議。嫌悪を象る言葉の軽快さ、すとんと胸におさまるような、コンパクトな痛快さが何だかたまらなくて、好ましい。



東京妖怪浮遊
東京妖怪浮遊
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笙野 頼子
岩波書店
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