自らに備わる性の輪郭を探り続けた少女期の終わり。不意に魅せられた光。彼女の得た幸せは、盲目的な愛情をもって、惹かれた男のすべてを受け入れ、その言、その思惑、その仕草のすべてに従うこと。他の女との関係を誇る言葉も、彼女だけが血を流す堕胎も。自らの苦しみを表に出すことを許さず、ただひたすらに従い、従うことこそが、尽くすことこそが、自らの幸福であると、そう信じる生活を、或いは、そう自分自身に信じ込ませる生活を、閉ざされた庭を、その甘やかさを、彼女は懸命に守り続けた。
流した自らの血にさえ男の愛を思い、残酷な言がもたらす痛みもまた、すべて仕方のないことと黙殺し、ただひたすらに、男から与えられるそのすべてを享受し続ける。訪れた別離は突然、だがそれは同時に、当然のものであったように思う。愛する男との生活を、庭を、自らの幸せと信じ続けるには、自らの苦しみを否定しなければならない。自らの苦しみを押し殺さなければならない。その生活は確かに幸せなものであったのだろう。だからこそ、生じた苦しみは耐え難い矛盾となり、彼女を苛んだ。自らの醜さを許せず、彼女は弱って行く。自らの幸せを否定する危うさを秘めた苦しみは、例えそれが僅かなものであっても、小さなものであっても、彼女にとっては許し難い自らの醜さ。彼女は自らの内に僅かな醜さを持つことにさえ、抵抗を感じ、怯えていたのだから。
彼女を庭の外へと誘う声は、ひどく温かで、優しい。
別離の後、離婚の後に受けた仕打ちにさえ、男からの愛を見出し、苦しまずに耐えることを彼女は自らに強いた。自らをあの庭から連れ出した男の前にあっても、男が与える悦びの前にあってさえ、かつての夫と共に在ることこそが自らの義務なのではないかと、あの庭こそ自らの生きるべき場所ではないかと、彼女は迷い続ける。度し難いほどに愚かしく、だが言葉は嘘のように、未だ澄んでいた。滲み出てしまうことを懸命に抑えた、そこに確かに内包されているはずの醜さこそ、愛おしむべきものであるのに。
作者自身の逡巡を跳ね除け、物語の主導権を握ったF・Gは、今はもう失われてしまった愛の、そのすべてを語り始める。
微睡みのような溶融の心地よさ。終わりに満ちる、哀しみの色を含んだ安堵の淡さ。物語は脆くて、危うくて、痛ましくて、とても綺麗だ。
彼女もまた、少女のように、硬く、頑なで、浄らかな彼女もまた、待ち望んでいた力強い抱擁の前に、迸る衝撃と悦びの中に、そのまま溶けていってしまえばよかったのに。