2015年6月12日金曜日

武田百合子作品の記録① 『富士日記(中)』『日日雑記』

『富士日記(中)』
最も好きな巻。目に映る物事、身体でこなした出来事、浮かぶ思い、思いを記す言葉。まるで心と身体、心と言葉がぴったりと、繋がり合っているかのよう。思いを飾り立てる意図を持たず、生じた思い、感覚、そのままを、言葉は表しているかのよう。そして何と可愛い夫婦、何と可愛い親子であることか。言葉を用いてその魅力を説明することが、何やら野暮ったく、無粋にさえ感じられるほど、素敵な人々である。悲しみと涙を率直に記した、愛犬の死。蜂に印を付け試みた実験と、蜂にかけた言葉。むっつりと妻を心配する泰淳の面白さ。中巻は特にたくさん、お気に入りのエピソードが詰まっている。

『日日雑記』
心、目が捉えたものだけを描く。見たまま、捉えたまま、感じたまま、言葉にする。自らに映るすべてを、そのまま言葉へ。それはまるで、その人が、その物が、その出来事が、そこに在ることを、好き嫌い、快不快、関係なく、肯定しているかのよう。言葉選び、場面選び、衒いもなく、気負いもなく、迷いもなく、ただ自らの内に、浮かぶものを、残っているものを。それがまたいつも、こちらの意表をついたものであったりするために、つい笑ってしまう。自身の感情は不在とも言えるほど少ない。しかし、たまにぽつりとつぶやく一言には、読むものの心を鷲掴みにするような、たまらない魅力が備わっているのだから狡いのだ。



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