運ばれて行く、眠りに、夜に、列車に。見知らぬ光景へと、違和感と、当然に満ちた、出会いへと。旅から旅へ、次から次へ。孤独であり、賑やかであり、温かであり、また、孤独へと。運ばれて行くことの面白さを、恐ろしさを、伝えながら。覚えながら。途切れることのない流れの中にいるあなた。愉しみ、恐れ、抗わず、流れに身を委ね続けている。あなたは女であり、男であり、目であり、多くのものを感じ、捉え続けている。温もりや煩わしさを遠ざける眠りを、慕いながら。遠ざけたそれらを、慕いながら。怖さは妖しく息づき、愉悦へ。
いくつもの可笑しさと、怖さを捉え、違和感さえ、疑問さえ、捉えた後、それもまた当然のことと、こういうものであると、静かに、穏やかに示す心に流される内、曖昧に、あやふやになって行く、いくつものこと。女であり、男であり、あなたであり、私であり、次々と。怖さを愉しさが溶かす時間の、緩やかな喜びに浸る。
多和田 葉子
青土社
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