”めぐし”は”むごし”、可愛く思うことは、酷いということと紙一重、表裏の関係。その姿を見れば、可愛いと、心弾む自らもまた、動物に対し、身勝手な愛情を注いでいるのではないか。まず明らかにされる迷いと不安。だが本作には飼育する側の傲慢さなど、どこにも見当たりはしない。種の隔たりと言うものをしっかりと念頭に置いた上での、素朴な愛情と、真摯な眼差しを注いでいるからこその、控え目な、理解がある。
熱心に見つめ、熱心に聞き、動物たちの姿に覚えた悲哀を、その言い難さ、言い表し切れぬもどかしさまで、もらさずに記す、率直さ。彼等の身体、動きより広がる想像と、意外な連想の面白さ。 知ることの楽しさ、明るいだけではない、怖さや遠慮、後悔が生み落とす陰影さえも含む、知るということの楽しさに満ちた、好ましく、爽やかな動物見聞録。
幸田 文
新潮社
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