2015年6月21日日曜日

獅子文六『七時間半』

あっという間の七時間半。何という楽しさ。もどかしかったり悶えたりワクワクしたり。心、ずーっと踊りっぱなし。それこそもう、魅力的な人しかいない。みなそれぞれがいい働きっぷり、うまいこと、いい按配に動き回って、賑やかに、華やかに、最後まで、列車とお話を運ぶ。
ヒロイン同士のバチバチ。当て馬、かませ犬の空回り、愚直男の浮き沈み。歯痒く絡まる恋模様がまた何とも可愛らしくて、堪らない。考えあぐねてもやもや、心は勝手に沸騰し始めてしまうし。更にどきまぎ、引き出された凡ミスまで可愛い。そして恋路を妨げるよう、ざわつく乗客の声を経て、列車全体に広がって行く不安…。
しかし、非常事態にこそ、決意は清々しく形を変えたりもするもの。会計さんかっこいい。どうしたって好きにならずにはいられない聡さ、潔さ。あの諸々吹っ切った瞬間の清々しさたるや…!会計さんかっこいい。ウメコ様も後半の方が素敵。
ハラハラ後安堵、あっという間の七時間。何て心地よい賑やかさ。わいわいと近しくて、馴染み深い賑やかさ。好ましからざる煩さではなくて、うんざりすることさえ忘れてしまったほどに、よく知っているような、近しくて、馴染み深い賑やかさ。なんて居心地のいい時間、なんて愉しい時間、その分降りてしまうのが寂しい…!



七時間半 (ちくま文庫)
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獅子 文六
筑摩書房
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