2015年6月19日金曜日

倉橋由美子『スミヤキストQの冒険』

Qの前に次々と現れる異形のものたち。彼等の奇天烈な容姿は、それぞれが持つ精神をそのまま、現しているかのよう。姿形に象られたそれはいわば、自らを隠すための衣をまとわぬ、剥き出しの生。奇天烈かつ異質な外見を持つものたちとの出会いの連続に、間に合わぬ消化。中身の特異さを象る肉体から滲み出る汗、脂…もたつく心に対し、まるで追い打ちをかけるように迫り来る、臭いの凄まじさ。決して広くはない閉ざされた空間の中、充満する悪臭。その執拗さ、中々離れぬ強烈さ、外見の醜悪さよりむしろ、臭いの方にこそ、タチの悪さを感じてしまう。くらくらと目眩を誘い、臭いだけは決して黙殺することが出来ない。
奇妙な人たち、奇妙な出会い、奇妙な日々の中において平穏を守るため、Qが頑なに閉じ籠り続ける理念と言う鎧は、どこか身勝手で、独善的であるからこそ、厄介で、強固である作りのもの。自らの信じるもの、自らを守るもの、非常時において、自らの隠れ蓑となり得るもの。それに固執し、或いは、固執する自らを続ける限り、鎧として用いる限り、平穏は保たれる。凄まじい生の悪臭の中でさえのろのろと、噛み合わない言葉での、噛み合わない応酬を繰り返すQの愚かしさ。その割に絶望を回避するためには都合よく働く、思考の図太さ。醜くもおいそれと糾弾できぬ、嫌な馴染み深さがあるような。騒がしく、滑稽に描かれた様相に潜む、現実への皮肉。読後胸に広がるのは、苦く、黒い笑い。



スミヤキストQの冒険 (講談社文芸文庫)
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