2015年7月12日日曜日

『マルコの夢』、栗田有起作品雑感

『マルコの夢』
ゆるゆるっと進む。キノコのマルコを巡る物語。不可思議なはずの展開を、可笑しなはずの人たちを、それこそ当然のことのように、平然と、淡々と。鼻につかない、ベタつかない、ザラつかない。困惑も驚きも、躊躇いも逡巡も、ゆるやかなその調子を妨げはしない。
生き難さのようなもの、どうしようもないことへの(無自覚の)諦めやら納得のようなもの。生を歩む上で避けられぬそれらもまたゆるゆると紛れ込む。程よい力の抜け具合、程よい頑張り具合…目の前の光景に流されるでもなく、適当に馴染んでいく図々しさ。諸々ちょうど良いと感じる。



『お縫い子テルミー』、『ハミザベス』、『オテル モル』…語り手は平然と語る、人と少し違うことや、特殊な境遇を。それらちゃんと、人と違うことも、特殊であることも、彼等はぜんぶ、わかっている。しかし、彼等にとってはそれが普通なのだ。人と違うことはわかっていても。受け入れ、適当に馴染んだ、自らの普通。受け入れるほかなかった、馴染むほかなかった、自らの普通。そりゃあ語る、淡々と。嘆くわけでもなく、誇るわけでもなく。自らの現実を淡々と。
当然のことながら、喜怒哀楽もある。安心を生み続ける緩さと素朴さを保ったまま、それらも当然語られる。そして、その中で出会う出来事やら物事を、不器用に、時に図々しく、こなしたり、流したりして、今とこの先に、それなりに適応していく様も。変わったり、変わらなかったりする様も。わかったり、わからなかったりする様も。こぢんまりとまとまって…恐らくはこのこぢんまりが重要で、そこをはみ出さないまとまり具合が何とも、ちょうど良いと感じるのであった。


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