歓びと欲望を淫靡に塗り込め、生み落とされた夢想。暗く密やかに興じられる耽溺。自らを高みへ導くはずの、艶美な企みを裏切る過ちの愚かしさ。予期せぬ痛みに歪み、だが、身悶える醜悪さの中にもまた、黒々と滴る魅惑的な色香がある。残酷な歓喜を求める心の蠢き、静かに、凄艶に、罪へと果てる。
重ね合わせた苦しみ、報われぬ共鳴と、暗く甘やかに育まれて行く願い、冷酷な拒絶の先、不穏に彷徨う結末の陰惨さ…「花冠と氷の剣」が特に印象深い。次点は「獣舎のスキャット」…歪んだ歓びへの陶酔を打ち明ける饒舌の滑らかさと、自らを望みへと繋ぐための企て一つ果たし得ぬ愚かしさ。渇望し続けたそことは程遠い末路にさえ、悦楽を見出す醜悪さが堪らない。「蜜の犬」などもふとした瞬間イメージが浮かんだりする。汚濁と退廃に満ちた空間の狭さや願望の陰惨さへの嫌悪と、嫌悪を伴うが故に色濃い傾倒。なんと言う始末の悪さ。不快感、厭悪…濁り混じる熱中の、その濃さを思う。
皆川 博子
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