多くを知り、多くを決め、多くを築き上げ…その身もその現実も、今更捨てようがない。年を重ねた分、豊かさと共に、濁りや澱みもまた、奥底にて厚みを増すもの。いいも悪いも蓄え、さすらうにはあまりにも重い身、だが、それでも挑む旅路はどこか、変化への素朴な好奇心を源泉とするような、新鮮さや瑞々しさを含み、老いることの酷さや憂いを思わせるばかりの、暗く寂しげなものでは決してないように感じられる。
確かな終わりを示しながら、同時に新たな始まりをも示す、記された変化の清々しさ。そして、滅びを思わせる変化にさえ、好奇心を以って向き合うその心の好ましさ、痛快さ。村田喜代子作品を読むたび、年をとることのよさ(…可笑しさやら煩わしさやら、楽しさやら悲しさやら、何やら沢山のものを煮詰めたような、面妖で、不可思議で、複雑なよさ…)を知る。