2015年8月22日土曜日

アンナ・カヴァン『われはラザロ』

世界はその正しさを疑うものに、その正しさの上を歩まぬものに、限りなく理不尽で、残酷な相貌を見せる。至極当然のことを行使する際の強靭さ、容易さを以って、何もかもを奪い、何もかもを妨げ、何もかもを捩じ曲げてしまおうと、重く、執拗につきまとう。
傷をまさぐる無遠慮な言葉と手、蔑みや嘲りの意を孕んだ冷酷な視線。行く先をことごとく阻み続ける黙殺と無関心。切実に示した抗いさえ報われる事はなく、あらゆる不条理に対し、何一つ掴み得ぬまま放り出されてしまう事に対してさえ、脆弱で、ただ無力であると言う哀しさ。孤独であり、不毛であり、誰かの気まぐれ一つでその生すら容易に変えられてしまうような、不当な危うさの内に在り続けなければならない哀しさ。怯え、不安、怒り、諦め…もどかしく、酷く息苦しい。
乱雑に抉られ、新たな痛みを植え付けられ、無惨にも蝕まれた心。訪れぬ終わり、明瞭さをもたらす終わりなど、彼等に訪れるはずもなく。不明瞭な苦しみを、この先も、どこまでも漂い続けなければならないことが恐ろしい。確かに壊れつつある世界の内、あらゆる悲しみ、あらゆる不穏が満ち行く中、逃げ場もなく、虚ろに彷徨い続けるその身を、未だ終わりさえ訪れぬことが恐ろしい。



われはラザロ
われはラザロ
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アンナ・カヴァン
文遊社
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