しかし、やはり久生十蘭。どこまでも久生十蘭。戦場の(或いは戦時下の)凄惨さや切実さを潜ませた可笑しみ。知っているあの人、あの鶏、あの場所。面妖で、トンデモで、愛おしむべきあれやこれ。戦場に対し、悲しみと共に抱くのが懐かしさと可笑しみであると言う不思議。死地、内地、ドタバタ、また死地へと。場面を結び、お話を運ぶ軽妙さには、何やら妖しげな魔法めいた魅力を感じる。
可笑しみを物語り、当然を飄々と述べ、熱の躍動や哀しみを克明に映し出す言葉の色豊かな光沢。柔らかく、しなやかになめすよう、丹念に趣向を施した作品の瀟洒さ。結末にさえ油断は出来ず、役目を果たし終えた身をベリベリと剥がす、躊躇いのない音が、不気味かつ鮮やかに響く。