一切の卑しさ(閉塞的な営みの繰り返しによって身につく類の)とは無縁の、高みにあるものの苦悩だけが、唯一熱を帯び、価値を持つ。排斥や糾弾さえ施す価値はないと、触れるべきもののないそこ、掬うべきもののないそれ等への蔑みには、憂いも、好奇さえも宿りはしない。ただ悪意だけがある。そこに属さぬが故に、それ等との接触や関わり合いを要さぬが故に、豊穣に生成し得た、純粋な悪意だけが。その隔たりの厚さ、その関心のなさを示すように。優雅に、平然と貫き通される冷酷さは、愚劣なるすべてを蝕む威力を備えた、濃密な瘴気へ…なす術もなく、自分もまた淘汰されてしまいそう。
冷徹であること。高みにあること。好奇も憂いも宿さぬ視線の、その純度を保ち続けるかのように、悠然と貫き通す。冷徹であることへの、屈託のなさを思う。純粋であることを思う。恐れにも似た、羨望にも似た、嫌悪にも似た、不可思議な感情を抱きつつ。
倉橋 由美子
新潮社
売り上げランキング: 1,670,589
新潮社
売り上げランキング: 1,670,589