2015年9月6日日曜日

タニス・リー『血のごとく赤く ー幻想童話集』

特に好きな四編の記録。

「狼の森」
赤ずきん。残酷にして荘厳なる白さの中、華麗に映え、その強さを示す、赤。鮮やかで、酷く美しい。黒々と渦巻く怒り、痛みと苦しみの記憶を滅する結末の凄艶さ。共鳴を示すよう交わし合う瞳、密やかに光る悪意もまた大変魅惑的。残忍な期待に膨らみ続けた心を、心地よく愉悦へと連れ去ってくれる。
「黄金の綱」
ラプンツェル。濃艶な闇に煌めく黄金の綱。儚げな瞳、あえかな相貌…限られた色だけを注がれ続けたために、その輝きは淡く、危うい。だが、ささやかな背反によって知り得た多くが、虚ろであった輝きを、眩く、色豊かなものへと、甘やかに満たして行く。
「緑の薔薇」
美女と野獣。怜悧で、硬質で、静謐な世界。舞台の妖美さにまず心奪われる。選ばれたものの孤独、清廉な交歓が溶かして行く隔たり。異形のものへの畏敬と嫌悪…あまりにも美しく息づくが故に、あまりにも優しく、穏やかであるが故に。柔らかに慈しみ合う、その熱情の慕わしさに、魅せられてしまう。
「血のごとく赤く」
白雪姫。悪に宿る美、狡猾に、残酷に、邪に…おぞましくも蠱惑的な闇を従え。しかしそのあどけなさ、脆さこそが正体であるように思える。そこで燦然と輝くお妃様の素敵さたるや。端正であり、聡明であり、優美であり…。王子の全能ぶりも心憎い。おしまいに募るのはささやかな安堵。



血のごとく赤く―幻想童話集 (ハヤカワ文庫FT)
タニス リー
早川書房
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