なぜ後期の作品にばかり惹かれていたのか。読んでいて、何となくその理由がわかったような気がする。苦しみを咀嚼し終え、飲み込んだそれさえも糧に変え。接し、触れ、交わり、生も、死も、清らかさも、濁りも、貪欲に取り込み続け。その多彩である分、心は潤沢に熟れ、艶やかに、滋味豊かに香り始めた。そう言った印象をその晩年より受けたために。融和、融合…同化と言うべきか、二人で一つ、と言う形まで夫婦の間柄を昇華し得たこと、伴侶との間柄がそこまで到達し得たこともまた大きいのではないかと思う。
大庭 利雄
河出書房新社
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