拙い異性を相手に行う、退廃的で、官能的な試み。多くを与え、吹き込み、作り変え、そしてすべてを奪う。所有や独占を目的とするものではない愛、自分自身を広げ、満たすための。だが、その貪欲さ故に、魅惑的な魔の先、より深く、果てしない場所を目指したために、未だ熱を帯びたままの濃艶なそれさえも、穏やかに、冷酷に、通り越して行く。
それはまるで罪を語っているかのよう。背徳的であり、残酷であり、それ故に暗く圧倒的な魅力を伴う。奥底へと潜り、自分自身より抉り出した罪。深みを目指し続ける過程において、自分自身を満たし続ける過程において、心惹かれ、必要とした。愛に興じ、自身を広げ、より奥へ達するため、作り上げたそれをも使い果たし、通り去る。なんて貪欲なのだろう、なんて切実なのだろう。
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無防備な空白に押し寄せる不穏な感覚の事。何か計り知れぬ怖さを秘めたようなそれ。あまりにも恐ろしく、あまりにも蠱惑的である為に、囚われてしまう事が怖くて、あえて目を逸らし、引き寄せられて行く心を無理矢理押しとどめ、懸命にやり過ごして来たもの。
しかし高橋たか子はいつも、その不穏さの中に、どこまでも踏み入ろうとする。不穏蠢く自らの内部、もう二度戻って来る事が出来ないのではないかと不安を抱くほどの危うい深み、奥底まで、潜り込もうとする。凄惨に、ひたむきに。その切実さがいい。その切実さ故に、言葉には清廉ささえ滲む。たとえそれが性愛や悦楽を象るものであっても。その切実さにこそ惹かれる。
高橋 たか子
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