高みにいる事もわかる。切実である事もわかる。試みの難解さもわかる。しかし何故こうも可笑しく、命懸けの駆け引きさえ滑稽に、喜劇めいて見えるのか。大見栄、大法螺、言葉を用いての大立回りも。鋭利に飾りたてた口撃の応酬も。壮大でも屁理屈は屁理屈とわかるそれ。滑り落ちて行きそうなほどの照り方、それでいて硬度を保ったまま、型崩れする事もなく、物語は滑らかに走り切る。
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いつも狡い。いつもそうなのだ。いつだっていちいちあれ。いちいち瀟洒。いちいち華麗。いちいちキレッキレ。取捨のうまさ、端折ったり含ませたりする語り方もいちいちそれ。いちいち魅せるそれ。脂の乗り具合もいちいち魅せるそれ。いちいち故に顔はげんなりたまに歯ぎしり、でも本当は夢中。
滑り落ちてしまう事なくギリギリの所を滑るように走り続ける華麗さ…その華麗さたるや。横転する事もなければ失速する事もない。道を誤る事もない。ずっとそれが一番魅せる道である道を間違えずに行く。無様さとは無縁の疾走。腹が立つほどに。
あと皆悲しいぐらいに役割が決まっていて、悲しいぐらいにそれ以上でもそれ以下でもないのだけれども、しかしその決まっている具合(語られる範囲だとか)がまたこの上ないと言うべきか、ぴったりと言うべきか、みっちりと言うべきか。中心に据えたものの生き死にの疾走を魅せるに際し最も適した見せ方配し方。その喜劇めいた軽妙さ、滑らかさに幾度となく心を奪われてしまう。