詩より絵、絵より小説へと。イメージは巡り、世界と化す。世界は巡り、凄艶に至る。世界は狭く、だが、果ては見えない。薄暗く、澱み、濁り、汚穢を消す、光もない。退廃を忌む、偽りもない。満ちるは腐臭。瘴気。身を委ね、溶け行く事の快さ。闇に揺れる、崩れ行く姿の美しさ。滞り続けている。蠢き続けている。繰り返し続けている。生も、死も。消え行く事もなく、乖離する事もなく、明瞭さを得る事もなく、ただ密やかに。溜まり続けている。
愉悦に囚われ、罪の内より逃れられぬもの。閉塞に渇き、不意に流れる血のに妖しさにだけ潤う、その相貌。湧き上がるそれは哀しみを含み、昏い羨望を含み、酷く甘やかな。憂いが秘する謎に惹かれ、窺うよう見上げる記憶を宿し続けるもの。背徳の醜さを恐れ、嫌悪に戸惑うその双眸。たたえたそれは確かに怯えを含み、だが、淫靡なる熱の波及をも同時に示すような。
薄闇に溜まり、滞る生と死。満ちる瘴気の濃さ、重厚に渦巻く欲望の艶やかさ。そのなにもかもが、喜悦の枷となり。沈むは至福、心は溶け出し、浮上を拒む。
皆川 博子 宇野 亞喜良
集英社
売り上げランキング: 389,127