2016年2月2日火曜日

皆川博子『海賊女王 上』

畏怖と羨望、嫉妬と憧憬を含んだ女王の呼び名を冠するに相応しいその勇姿。彼女に最も近しく、誠実であり続けるものの目を通し、自分自身の内にしっかりと刻み込む。頭に立つが故の、そして一人異なる性を持つが故に被る苦しみ。信ずるか、拒むか、受け入れるか、抗うか。すべての選択に危険は伴い、決断には凄まじい重圧がかかる。だが、彼女は常に、輝き続けていた。その胸の内に燃ゆる太陽の如く、燦然と輝き続けていた。
凄惨な争いと束の間の安息を物語る言葉の快さ。じゃれあいは終わらぬ動乱の中にあって、特に鮮やかに映る。争いの凄惨さ故に、陰謀の醜さ故に。強靭な武装を解き、心安いもの達とじゃれあう一幕は、彼女の生の内でも特に楽しく、喜ばしいものとして感じられる。
なんと言うかもう、読めば読んだだけ愉しい…。無尽蔵であるように思う。無尽蔵の豊かさであると。(掘り進めるように)読んでも読んでもあると言う喜び。潜っても潜ってもまだある、尽きない。満ちている。満ち満ちている。そう簡単には貪り尽くせない事の嬉しさをずっと、噛み締めている。下巻も大変楽しみ!

アランがもう、ザ・皆川博子。ザ・皆川博子の目。ザ・皆川博子の主人公。危うくない方のザ・皆川博子。誰かを、魅力の塊みたいな存在を、支える側である方。抜群の安定感を持つ方。守る、は最早本能。自分自身の一部と化すほどに、大切な。黙々と、不器用に、守り、支え、じゃれあい、寄り添う。グローニャ、アラン、オシーン…何という素敵な繋がり。この上なくいい。



海賊女王 上 (光文社文庫)
皆川 博子
光文社 (2016-01-08)
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