2016年2月11日木曜日

皆川博子『海賊女王 下』

何という濃い生。凄まじく濃い。生き切った、と言う感じがする。戦い抜き、抗い抜き、彼女は生き切った。この上なく見事に。揺らぐ事なく、崩れる事なく、臆する事なく、屈する事なく。輝かせ続けた。その胸に宿る太陽を。最期の最期まで、輝かせ続けていた。同じ威光を冠するものに示す共鳴は重く、哀感を帯びる。大切な何もかもが弱さとなる事の歯痒さ。野心に濁る思惑を払い、陰謀を見抜き、最善を選び取る事の難しさ。押し殺し、抑え込んだもの達の熱さ。だがそれでも、彼女は最期まで燦然と輝き続けた。女王として最期まで、燦然と輝き続けていた。
戦場に舞い、不屈の海を走り、作り上げ、鍛え上げ、奪い、護り。一人ではないために。時に弱さとなる大切なものを持つために。互いの境目を失うほどに、深く溶け合う唯一無二の支えをもつために。その身に太陽を宿すために。その強靭さ、その逞しさ、その奔放さ。眩い勇姿、その孤独、その苦しみさえも燦然と。生は受け継がれ、語り継がれ、永遠の海を行く。

最高であった。抜群の名残惜しさ。その生に余分はない。見事に使い尽くした。使い切った。名残惜しさもまた悔恨を含まない、快いもの。膨大な時間を共にしたための、重厚で快いもの。



海賊女王 下 (光文社文庫)
皆川 博子
光文社 (2016-01-08)
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