善悪の境目を持たぬ妖美の告白。問い掛けるように。打ち明けるように。密やかに記す過去の凄惨さ。閉ざされた闇に生きるもの達の悲哀。息苦しい。彼等を慕わしいと感じるが故に。そこに滞る思いがあまりにも清澄である為に。辿り着いた真実を覆う欲望の醜さも。不安定に揺れ続ける書き手の自嘲も。だが、ネイサンが大変効いている。何といういい緩み。心憎い緩み。彼の健気な焦りこそが、そのささやかな冒険こそが、逸り、乱れる心を緩め、小気味よい笑いに誘う。
緊迫の快さと陰惨なる事件への昏い期待、そして瀟洒なユーモアが運ぶ緩み。おぞましさに震え、儚さに揺れ、美しさに溺れ。得るは極上の愉悦。
皆川 博子
早川書房
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