夢の歌の英雄達。子どものまま永遠に年を取る事のない、腕白で、元気一杯の男の子達。戦ったり、暴れたり、イタズラをしたり。夢の時間の中で、楽しそうに遊んでいる。遠い日に失くした、「あなた」の愛おしい男の子もまた。その旅路のすべてが「あなた」の夢の時間へ。「わたし」の旅路を記す言葉のすべてが「あなた」の夢の歌へ。何と嬉しい事か。
その夢はいつも、重く、息苦しいものであった。どれだけ目を背けようとも逃れる事の出来ぬ、現実の閉塞感を象るかのように。『黄金の夢の歌』は、それ故に喜ばしい。その夢が、その現実より生まれた夢の歌が、どこまでも広く、開かれたものであるが故に。「あなた」の夢の歌もまた、「わたし」の現実を離れ、正確に流れ行く時の支配を逃れる事で、死より免れぬ人の生の、救いとなり得るものであるが故に。2016年、「あなた」もまた、夢の時間へと旅立ってしまった。「あなた」の懐かしく、大切な男の子がいる夢の時間へ。沢山の夢の歌を残して。狭く、騒がしく、忙しない生の内に在るもの達の、自分の、救いとなり拠り所となる、沢山の夢の歌を残して。
津島 佑子
講談社 (2013-12-13)
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