2016年3月30日水曜日

『アナイス・ニンの日記』の合間に、矢川澄子『「父の娘」たち』

『アナイス・ニンの日記』の合間に。
(そのため今回はアナイス・ニン側のみ再読)

巧妙でしたたかな取捨選択による熱情と愉悦の欠落。本当は更に膨大。本当は更に大変で豊饒。”作品”へと昇華するために省かれたものの熱さ、密やかさ、大胆さ、忙しなさ、底知れなさ…。
稀有で貴重な交遊に潜む、淫靡な時間の存在を、その驚くほどの多さを知り、なお一層思う事。誰も、彼女を愛した全員を以てしても、彼女を満たす事、彼女をいっぱいにする事、彼女を奪う事は出来ない。日記と言う絶対的な存在(際限のない自分を曝け出し、まとめ、探り続ける場・縋るべきもの)を、彼女は持つ為に。日記と言う絶対的な存在が、彼女自身の生より出でたものである為に。真の安寧も充足も、日記への耽溺の中にのみ。
その形を整える際に、彼女自身が切り捨てたもの達をも含む、本来の姿。それは多分、”作品”であるよりも、もっと激しくて、真摯で、不都合なまでに潤沢で、驚異的であるもの。惹かれると同時に、恐れをも感じる。



「父の娘」たち (平凡社ライブラリー)
矢川 澄子
平凡社
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