何か、輪郭を得た思いがする。言葉より沁み入り、まとまる事なく、境目を持つ事なく、重なり合い、滲み合うようにして息づいていた情景達の。息遣い、色彩、温度…淡く、けれど鮮やかに胸に居着いていた感覚達の。緩やかに見え始めた姿は新しく、濃さを増した陰影もまた慕わしい。
須賀敦子のエッセイ。その好ましさ、その哀しさ、その余韻…物語を読む時、物語を読み終えた時に抱く(或いは残る)それに似ていると。自分がそう感じていた理由に、ようやく出会えた気がする。今一度歩み直していたのだと。今一度対峙し直していたのだと。共鳴が穏やかに満ちて行く。
湯川 豊
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