2016年5月6日金曜日

タニス・リー『ゴルゴン 幻獣夜話』

大変いい。何と贅沢な。至福の時。存分に享受する。魔性を秘する言葉の数々。世界はかくも美しく、残酷で、魅惑に満ちたものと成り得るのか。感嘆。何もかもが物語を持つ。哀しみを、歓喜を照らすよう、巧妙に埋め込まれた何もかもが。
遭遇、或いは変貌と言った瞬間の緊迫感。凄まじい。息を飲む。魅入る。圧倒的な存在感に。重厚な静寂。そのもののために、すべてが沈黙する。暗色に煌めく濃艶な光。そのもののために、すべてが色褪せる。
奥へ、奥へ。深淵の闇へ。終わりを持たず、悠久を蠢き続けるもの達の息遣い。妖しく、扇情的な。人々は惑い、囚われ、時に抗う。鋭利に輝く棘の甘さ。悲劇に潜むそれは、痛みをもって心を絡め取る類の、愉悦。
覚める事なく広がる、幻想の深さ。迷い込んだものを、決して逃しはしない。決して離しはしない。その豊穣さ(言葉、想像の)が導く先に、落胆や失望はあり得ないと、求めるだけの恍惚と充足があると、今ではもう、絶対的な信頼を抱いている。



ゴルゴン―幻獣夜話 (ハヤカワ文庫FT)
タニス リー
早川書房
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