2016年5月8日日曜日

リチャード・ブローティガン『西瓜糖の日々』

その世界は甘く、淡く、穏やか。何もかもが希薄であるように思える。希薄であるが故に、穏やかで静か。ある日突然、無言のまま、静のまま、誰にも気付かれる事なく、消え失せてしまいそうなほどに。均衡、調和。しかしそれはとても低い所で保たれているよう。振り切れる事も、煮え滾る事もない。感情。登ってはいかない。増えもしない。かと言って、まるで価値を持たぬ訳ではないが。揺れ動かぬ訳ではないが。
不明瞭はずっと、不明瞭のまま。未知はずっと、未知のまま。ある。そこにある事はわかっている。けれど触れない、その為に。相当な痛みを伴うはずの愚行にさえ、熱も、切実さも、見つける事は出来なかった。眺める方にも当然。淡々と、驚くほどに淡々と、希薄な平穏に溶け込んで行く。



西瓜糖の日々 (河出文庫)
西瓜糖の日々 (河出文庫)
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リチャード ブローティガン
河出書房新社
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