2016年6月19日日曜日

『アンソロジー おやつ』

甘さと共に蕩け、甘さと共に蘇る時間は、楽しいもの、幸せなもの。けれどそれは短く、儚く、消え失せてしまうもの。淡く、遠く、戻れぬもの。その甘さを思い、味わうほかない。溶けてしまうまで。仄かに残る切なさごと。矢川澄子のそれは、可愛くて、愉しくて、綺麗で、哀しくて、慕わしい煌めきのようなもの。森茉莉のそれは、夢のように蠱惑的なもの。たっぷりと濃厚で、甘やかで、幸福で、柔らかで、あまりにも色豊かなもの。夢の妖しさを持ったもの。魔を含み、魅了するもの。幸田文のそれは、懐かしくて、微笑ましくて、優しくて、心憎いもの。後味まで丁度良いもの。飽きのこないもの。獅子文六のそれは、面白いもの。可笑しくて、小気味好くて、忘れ難いもの。食いしん坊であるが故のもの。
自分もまた堪能する。その甘さと、あっという間になくなってしまう、あの切なさごと。



アンソロジー おやつ
アンソロジー おやつ
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