2016年6月21日火曜日

『皆川博子コレクション8 あの紫は わらべ唄幻想』

何処より声は響くのか。近く、遠く、姿は見えず。痛みを、歓喜を物語る声だけが、静かに届く。怪しき語り手。映し出す色は艶麗。漂い、触れれば柔らかにほどけ、香る。妖しき名。潜んでいる。不気味であると、不快であると告げる、厭悪の視線を逃れるよう。退廃に耽り。そして沈み込んで行く。現を離れ。艶やかな笑みをたたえ、沈み込んで行く。時間も、区切りもない。闇へ。淫靡に満ち、渇きを潤す。陰惨に溢れ、残酷な願いを叶える。闇へ。自ら望み、囚われたまま、彼等は至福を物語る。悲しみを物語る。

闇に溜まり、滞る情念。晴れる事なく、炎と化し、激しく、黒々と迸り、己が身へと迫り来る様は。何と魅惑的に映る事だろうか。現よりも闇の凄惨さを愛し、その深淵を覗き込むものにとって。甘やかに溢れ出で、自らを誘うよう濃艶に立ち込める様は。何と煽情的に映る事だろうか。
繰り返し、繰り返し、彼等は闇に戻り続けるのだ、と思う。いつであっても、どこであっても、誰であっても。確かさを捨て。溜まっている。満ちている。開けば戻れるのだ、と思う。


エッセイもよかった。身近さを感じ取れば安心し。あの妖艶なる作品群、あの美しき世界を今尚生み出し続ける心の深遠さに触れれば感嘆し。ますます惹かれる。



皆川博子コレクション8あの紫は わらべ唄幻想
皆川博子
出版芸術社
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