2016年6月24日金曜日

吉田知子『お供え』

緩慢で惰性めいた熱中。やめられない。戻れない。し続ける。動き続ける。考えをまとめる暇を自分自身に与える事なく。今も昔も紛れ込む記憶も雑然としたままに。彷徨い続ける事は怖い。けれど歩みを止める事の方が、より怖い。

理不尽。異常は理不尽に侵入する。無表情に。無口に。無関心に。お構いなしに。此方の顔色を気にする殊勝さなど欠片もない。異常は侵食する。それまでの生活を。それまでの当然を。それまでのその人自身を。その不安定さに付け入るように。理不尽に。のっぺりとしていて、とっかかりがない。怒る事も、抗う事も、これでは出来るはずがない。やすやすと入り込まれてしまう。そうなってはもう、進むほかない。気が付けば、受け入れてしまっている。気が付けば、踏み込んでしまっている。わけもわからぬまま。迷い続けている。

怖い。とてつもなく怖い。入口などそこかしこにあるのではないか。



お供え (講談社文芸文庫)
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吉田 知子
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