2016年7月10日日曜日

タニス・リー『死せる者の書』

終わりを前に、燦然と輝き始める生。終わりへと向かう飛翔の中にこそ、至福はある。歓喜はある。充足はある。絶望より、或いは倦怠より生まれ、高みを目指す事を、飛び立つ事を求め、迸る熱情。それは破滅へと繋がる不吉さを孕み、けれど、その生に澱む停滞と閉塞を払う、唯一の手段となるもの。その生を鮮やかに煌めかせる、唯一無二の糧となるもの。酔い痴れたまま、終わりへと昇り詰めるもの達の相貌。際立つのはその美しさ。その愚かしさ。その凄艶さ。例え残酷な形で迎えたとしても。それは酷く甘美なものであるように映る。

腐り切った呪いの効用に縋り、犯した背徳の、その残滓をすするよう、生に執着するもの共の醜悪さ。蠱惑的な幾つもの死の中に紛れ込むが故に、より醜さは増す。



死せる者の書 (創元推理文庫)
タニス・リー
東京創元社
売り上げランキング: 263,649