2016年7月11日月曜日

日本の名随筆『化粧』(別巻39)

日本の名随筆シリーズを読む、その3。よしあし、好悪を論じぬものの方が、どうしたってよく思えてしまうテーマ…。

佐多稲子の怜悧さが際立つ。思慮深い目。しっかりと見ている。変化を否定せず、その先にこそ発展があると、見出している。書かれた時代に思いを馳せず、今にあるまま、好ましくも読む。津村節子の「天職」もいい。死者に施す化粧。冷たく硬直した死の表情を解し、近しい者達の思うその人、命あった頃のその人となるよう。見送る者達の為、施す化粧。弔いとしての、化粧。淡々と、穏やかに続く言葉には、生者の側で死を間近で見続けて来たものの、冷静さがあった。死の唐突さを知るものの、厳しさがあった。慰めの在り方を知り、その空しさと心強さをも知るものの、優しい共鳴があった。

津島佑子の「似合う」は息苦しかった。鋭くて、骨張っていて、頑なで、息苦しかった。ピリピリと悲壮なまでに張り詰めていて、切実で。辛かった。歯痒かった。



日本の名随筆 (別巻39) 化粧

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