2016年8月14日日曜日

村田喜代子『12のトイレ』

生きている限り、どうしたって親密になるもの。どうしたって切り離せないもの。トイレとの縁、トイレとの仲。沢山のトイレを見て来た、使って来た。トイレと言えないようなものもあった。汚かったり、薄暗かったり、凄まじく臭ったり、執拗にそれが消えなかったり…広かったり、狭かったり、妙に綺麗であったり、冷え冷えとしていたり、不気味であったり。
地獄のような様相も見た。強烈な悪臭に困ったりもした。思わぬ無機質さに戸惑ったりもした。その雑多さ。それは感情の雑多さ、人の雑多さ、生活の雑多さ、家庭の雑多さを思わせるような。雑多なトイレの思い出にはいつも、そう言った雑多さを知る事、少しずつわかって行く事の苦さや嬉しさ、寂しさがくっついている。

自分もよくトイレの夢を見る。汚過ぎて忘れられないトイレだとか、前住んでいた家のトイレだとか、子どもの頃に借りた友人の家のトイレだとか。自分もやはりそのトイレを前にした瞬間の感情が蘇ったりする。自分との違い、自分の家との違いなどを知った瞬間の戸惑いや驚きと、再び出会ったりしている。自分を知る事の厄介さやいたたまれなさと、再び出会ったりしている。



12のトイレ
12のトイレ
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村田 喜代子
新潮社
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