心当たり。身に覚え。確かにある。疑いようもなく。これ、と取り出せる類のものではないけれど。明確な輪郭を持つ類のものではないけれど。混ざる。溶け込む。自分が。二重に生きているような気になる。その平穏を。そのまとめようのない平穏を。否定するとか、肯定するとか、そう言う事ではない、捉えるだとか、筋道を立てるだとか、平素そう言ったつもりでいる訳では(当然)ない、その平穏を。うんざりするほどよく知り、うんざりするほどよく馴染んだその平穏な時間を。
引き出される。際限なく。身に覚えのある感覚も。情景も。またそれを読む喜びも。生を読む、生を象る言葉を読む喜びも。生を象るため緻密に編み込まれた言葉の、その強靭さに触れる愉しさも。一筋縄ではいかぬ、その快いだけではない手触りを知る愉しさも。引き出される、といつも思う。