色々なものが漂っている。色々なものが一緒くたに、グツグツと煮込まれている。たまりにたまった記憶はごちゃ混ぜごった煮状態。元がどうであったか。そもそも何が入っていたのか。今となってはもう、わかりようがない。その残り方。その煮つまり具合。あまりにも不可解であり、面妖。けれどそれはおばあさんの、短くはないその生の中で身に付いた鷹揚さやたくましさの表れであるようにも思えるもので、決して悪くはないし、手のつけようもない事と怖れる一方、時に魅惑的であるとさえ感じている事も確か。
信用出来るものであるのか否か。最早確かめようもなく、正しようもない有様の記憶。様々なものが浮かび漂うそこ。覗くのは怖しい。けれど何となく納得する。どうしたっておばあさんには敵わないと悟る。考えれば考えるほど、そう感じる。
村田 喜代子
文藝春秋
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