2016年9月2日金曜日

小泉喜美子『血の季節』

何もかもが程良く煽情的。異形の存在と自身の変貌を仄めかす告白への陶酔を促すかのように。緩やかに露わとなる記憶の何もかも(…その不自由さ。その閉塞感。その出会い。その喜ばしさ。その衝撃。その恐怖。その交歓。その熱中。そのあえかさ。その忘れ難さ。その憧憬。その翳り。その変化。その美。その躊躇い。その喜色。その残酷さ。その欲望。その歪み。その別離。その当然さ。その退廃。その邂逅。その至福。その語り口、怜悧な克明さと不明瞭な妖しさを兼ね備えたそれをも含む…)が煽情的。陰惨な事件を追うものの内に滾る何もかも(…その熱情。その憤り。その愉悦。その確信…)もまた。闇を深め、密やかに暗躍する異形と、甘やかな変貌の様相を彩るかのように。その魅力を発揮するに相応しい、極上の舞台を彼等に供するかのように。

自身の好きを輝かせるために、作者が選び抜いた最良、と言った印象。



血の季節 (宝島社文庫)
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小泉 喜美子
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