2016年9月17日土曜日

室生犀星「火の魚」雑感

犀星のその、女人に向ける視線の陰湿さと言うか、執拗さと言うか、厄介さと言うか、老成し、かなり恐ろしい所にまで達した切実さに触れ、久方ぶりではあったけれど、諸々一瞬にして蘇り、ああ、犀星だなあ…と何だか妙に納得する。
拘り、追い求め、蒐集し続け。遠い日の憧憬にさえ、未だ重く暗い熱を孕んだ目で触れ。愛でるかのよう。それも老獪に。執念深く。懇願し、拒み、崩れて行く応酬の危うさ。頷くと。頷くほかないと。わかっていて、乞う。その熱情の、逃れ難さを思う。なんて卑怯な。なんて陰険な。