2016年9月20日火曜日

小沼丹「懐中時計」

いつの間にかつるんでいたように、いつの間にか疎遠になってしまっていた人との。妙なやり取りなど。つるんでいた時分、何となくはじまり、何となく決まり事のようになり、何となくしなくなってしまっていたその。思い返せば何だか不確かであるその。つるみ方など。
そう言えば、と言うような具合に。ふっと現れ。ふっと消え。何とは無しに話し。何とは無しに遠去かり。やり取りも。その人自体も。そんな付き合い方をしていた人がいなくなってしまった事を知る時の、曖昧な感じ。ふわふわ浮いてしまい、上手く掴めぬようなあの。寂しいけれどなにか不思議な余韻を残す。滋味とはこれかと思う。