2016年11月22日火曜日

タニス・リー『幻獣の書(パラディスの秘録)』

魅惑の色彩、艶麗に光るその瞳が秘するもの。惑わせ、誘い、贄とし、貪り尽くす。異形。ただそれだけを、奪い、支配し、貪る欲望を備えるだけの…。如何にもな舞台、如何にもな謂れ、如何にもな麗人。それはもう、身悶えするほどに甘美な惨劇が始まるに決まっている。わかっていた。囚われると。後戻り出来ぬと。信頼しているが故に。その豊かさを、自在さを。言葉と発想の。高まり続ける期待を決して裏切る事のない愉悦に(安心して)溺れるのみ。
変貌の瞬間。濃密な歓喜と、恐怖が溶け合う最高に淫靡な。何もかもが滾り、噴出するかのよう。闇に潜み、邪悪に飛翔し続ける異形の暗躍を追い、抗うもの達の苦悶に触れ。幾度となく味わい、満たされた。けれど最後に際立つのは物語そのものの美しさ。その着地。平穏を象るその言葉。あまりにも心憎い。あまりにも好ましい。この上なく報われた思いがする。



幻獣の書 (パラディスの秘録) (創元推理文庫)
タニス・リー
東京創元社
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