2016年12月6日火曜日

室生犀星『我が愛する詩人の伝記』

自身が愛する詩人達。自身にとって最も馴染み深く、最も慕わしい彼等の姿を。その詩を読み、その詩と向き合う事で今一度会えた彼等の姿を。思い浮かべ、紐解き、評し、確認する。言葉にこもるのは静かな熱。彼等に抱く愛情の表れとでも言うべき。どれだけ愛していたか。どれだけ大切であったか。重さを。忘れ難さを。その熱こそが、克明に伝える。再会を果たした事で、新たに募り、こもる熱こそが。ジットリとした視線。犀星特有の。その陰湿さ、執拗さもまた凄みと化し。切実に伝える。愛する何か、愛それ自体を語る時の犀星の言葉は強い。
やはりと言うべきか、萩原朔太郎が印象深い。その付き合いがどれだけ長く、己が身と人生に染み付いてしまう程に長く、欠かせないものであったか。好ましいものであったか。読めば自ずとわかるような。呼びかけとてもいい。萩原よりも十二年も横着に生きのびた、の後に続く。

友人達の妻や娘、愛人をもその執拗さを以って語る辺りもまた犀星と言う感じ。犀星の目は怖い。見て欲しくない所を注視する。見る相手が女性である場合、殊更にイヤラシイ。けれど詩人達の人生の中で、彼女達が如何に重要な存在であったかを語る言葉には何と言うか。優しさがあった。詩人達に抱く愛情と同等の優しさが。



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