2017年1月27日金曜日

多田智満子『十五歳の桃源郷』

その内部に息づいているもの、その発想の源泉とも言うべきものを読んでいる、と言う感覚。それは夢の中でのみ遭遇し得る類の豊かさや自在さを備え。けれど確かに存在するものの明瞭さをも同時に備え。あまりにも美しく、深遠な広がり。
手応えがある。触れたのだと言う。決して脆くはない。繊細ではあるのだけれど。硬く、崩れ落ちぬ強さがあるように思う。夢のような美しさを。あり得ぬようなそこが、確かに存在していた事を。克明に伝える言葉。
意外な近しさを感じる事もしばしば。物事も、美しさも、自分自身も、平易に、ぼかす所なく語っていて、凄く好ましい。身近さを感じても、その世界が深遠であると言う印象は薄れる事がない。知っても知っても幻滅する事がないと言う稀有な喜び。

多田智満子の本をもっと読みたいと思う。この人の内にあるものをもっと見てみたいと思う。そしてそれをどう語るのか、もっと知りたいと思う。はかりしれないのに、明晰であり、受け入れやすく、快く、美しい。これぞ享楽的読書。



十五歳の桃源郷
十五歳の桃源郷
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多田 智満子
人文書院
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